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「天使」佐藤亜紀 [書籍]



この方の小説を読んでいると自分が途方もない阿呆に思える。事実、阿呆なんだろうな。
時代背景とか人物の置かれた状況とか、まったく説明してくれない。全然親切じゃない。
それなのに、のめりこんでむさぼり読んでしまう。
ついて来られる奴だけついて来なさい、って感じで、その突き放し感がまたそそるっていうか。
で、そんな小説を読む自分がちょっと自慢(笑)。
何読んでるの? へー佐藤亜紀? なかなかやるじゃん。
みたいな、本読み同士の通俗的な見栄の張り合いで恥ずかしいんだけどね。

前半のいたいけなボロちびジェルジュが、スタイニッツ男爵の薫陶よろしくすくすく育ち、若造らしく瑞々しい生意気っぷりで痛い目にも遭い、やがて洗練された男前な伊達男に変貌してゆくのは、こりゃもう堪えられない官能ですわ(笑)。佐藤亜紀さま、書いてて楽しかっただろうなあ。
初めて燕尾服を誂えるとこの描写が妙に好き。

“感覚”と称されるサイキックな能力の描写がクールでかっちょいい。ていうか、この“感覚”のモチーフを扱うだけでお話が振り回されちゃいそうなのに、軽々とスマートに扱われてて、その“感覚”によって第一次世界大戦前後のゴッツい骨太な話がシャープに削りだされてるみたいな感じもする。

大戦前後のヨーロッパっていう舞台立てにもっと詳しければ、巡らされる策謀やパワーゲームや諜報活動やミッション遂行の様がもっとおもしろがれるのかもしんないけど、詳しくなくっても充分にワクワクドキドキハラハラを堪能できる。

あと、出てくる食い物がいちいちおいしそうで堪らん。
チョコレートとか、リキュールとか、糖蜜みたいに砂糖たっぷりなコーヒーとか、甘いものがやたらに出てきて、しかもものすごくうまそうに堪能する様が沁みる。うー、チョコレート食べたい。
ヨーロッパの街の居酒屋でとる料理も、気の利いた感じでものすごくうまそう。塩辛いスープ、とかなにかの煮込み、とかそっけないもんなんだけど、そのそっけなさが効く。うまそう。
後半でライタ男爵と食らう蟹とアスパラガスは白眉。垂涎もの。

女性絡みのエピソードもドライな作品世界を損なわず、華を添える感じに控えててイイ。

エレガントで重厚で狂ってて切なくてクールで乾いてて熱狂な、グレートフルな読みもの。
大好き。



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