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「物陰に足拍子」内田春菊 [書籍]



角川文庫版とか、いくつか版があるみたいだけど、わたしが持ってるのは最初に刊行されたマンサンコミックス版。
装丁とか口絵デザインとか、二色ページの色選びのセンスとかがすっごくイイ。
内田春菊は単行本のデザインがイイものが多いので、かさばるんだけどついつい単行本で揃えてしまう。


両親を失い、兄夫婦と暮らす高校生、みどり。
が、いろいろ遭って、いろいろ感じて、いろいろ考えたり思ったりするお話。
(↑あらすじを書こうとかなりめにチャレンジしたんだけど、無理。放棄。笑)


生々しい性描写も厳しい暴力もハードな出来事もてんこ盛りで、波瀾万丈って言いたくなるけど。
波瀾万丈っていう言葉の他人ごとな語感が不似合いな、突き抜けるリアルさ。
惨事のただ中に居る人は悲鳴もあげられない、っていう喩えはなんかヘンかもしれないけど、そんな感じの妙な冷静さ。リアリズム。

ヘヴィで痛くて、生々しくて。
冷たいのか熱いのか、わからない感じの強い刺激が鈍く押し迫ってくる。
気楽に読める話じゃないけど、不思議に後味は悪くない。


「痛い目にあうためのからだに生まれたのね あたし」

毎月の経血、月経痛。
嫌でも女のからだってやつを意識させられて、それが嫌で嫌で仕方がなくって、でも、逃れようがなくって。
第二次性徴期。からだが変化していくのはすごく気持ちが悪いものだ。その上、周囲が自分を見る目も変わってきて、さらに気持ちが悪い。自分が呪わしい。
っていうことを、なんか思い出した。女なら誰でも、自分のからだが気持ち悪くて呪わしい、っていう気持ちはあると思う。
だから、せっせと着飾ったり化粧したり時に手術したりしてまでからだの手入れをして、どうにかして気持ち悪くなくそうとしてんじゃないのかなー、と思ったりすることがある。自分のからだが嫌いだから、好きになろうとしてんじゃないのかなー、と。


「ふとんの中が 押し入れの中が お風呂の中が そしてあたしの中がが
 あたしにとって おかあさんだった…」

押し入れにこもり、あたたかくつつんでくれる場所を求める。
何度も子宮と胚のイメージが出てくる。重要な要素。


「あたし こんなにこわいと思うのはじめて
「でもこわいのがなんか うれしい」

日曜日の早朝から遊園地。観覧車にのって、(フツウでのどかに過ごす一日が)こわいと、つぶやくみどり。
好きなエピソード。なんか切なくって可愛くって、頑張れーって感じ。


「なるべくフツウでないことが起こって欲しいわけよ」
「たぶんみんな狂いそうなくらいそう思ってるよね」

みどりが自分の怒りに気づく場面。
何に対して怒っているのか、理解する場面。
怒りって大事な感情だと思う。
何に対して、どんなふうに怒っているのか、取り違えると、怒りのパワーがあらぬ矛先に向って、とても危険。
だから、怒りを知るのはとても重要なこと。


「せつなくて せつなくて せつなくて だれかに助けて欲しくっても
 あたしは生まれたときからこんなあたしで あたし自身にもどうしようもないんだもん」

助けてほしい、って言うのは、ものすごく勇気が要る。
みどりは精一杯の勇気を振り絞って、助けを求めつづけてきて、それでも押し寄せてくるさまざまなことがつらくて苦しくて、泣く。

この場面から、物語の最後へ。
みどりは、自分自身で、自分を助けようとするんだ、と思った。
その意外な程のあっけなさに驚きつつ、それしかないよな、と納得させられる。
甘い希望は一筋たりとも描かれていないけど、これからもつらいことはいろいろあるかもしれないけど、それでも、その行動は間違っていない、と確信してしまうラスト。



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コメント 5

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麒麟の鬣燃ゆる赤口

あ,わたくしの出番ですね。

「何で私の事が書いてあるの?」とピンポイントで女性読者からメッセージをもらう内田春菊の、密かにこれが代表作なんじゃないかな,と思う作品。
身体感覚ばかりはどうやっても分からないものなのでねえ。男性のわたくしは興味深く読ませていただきましたよ。それにしても今でもピンと来るのかな?ケータイとかで友だちや知識の積み重ねとつながる事が出来るから、隠されたイメージとか,あけすけで,なくなっちゃってるのかな。でもやはり,誰でも等身大の悩み持ってたりするんだろうしなあ。

やはり少女は家を出なければならないのよ。さよならセシルなのです。
by 麒麟の鬣燃ゆる赤口 (2009-01-06 00:17) 

シロタ

きりんちゃん、毎度お越しやす。

「物陰…」は内田春菊が自分自身のために描いた浄化の物語なんじゃないかと思うことよ。
最近読み返したけど、やっぱりすごい。

今のコたちにピンとくるかどうかはわからねど、ていうか今のコたちのことなんかちっとも興味ないからどうでもいいけど。

身体感覚ってのは知識とか言語情報じゃないからなあ。
男にのっかられてやられる、っていう感じが、これほどリアルなイメージはちょっとないと思う。
で、男性がこれを読んでどう思うのかってのは興味あるな。
特に、ボコられて顔が腫れて酷い状態でやられるとこ、「男ってこういうものだったんだ」っていう場面なんか、どう思うんだろ。


by シロタ (2009-01-06 09:28) 

麒麟の〜以下省略

どもども。
きのう、「監督・ばんざい」、観たんですよ。近日中にレビューUPしますけど。
その中で、そんなシーンが、出てくるんです。まあ捉え方次第ではそんなシーン、といったほうが適切かなあ。おっちゃんとおばちゃんだしね。

何か、たぶん、そうなんだと思うんですけど、そこにセックスしかないから、そういう事になるんだと思うんです。コミュニケーションツール。特に男性側にとって、それしかないんじゃないですか、あの場面。彼女の内面とは、どうやってもつながる事は出来ない。そんな中、せめてもの抵抗。

男は浅い、ただそれだけのことだと思うなあ。
非道なんじゃなくて、何もないんだと思います。
おおかたの男衆は、何も感じない、そういう描写があったね、あれひどいよねえ、くらいにおさまってサラッと流れるんじゃないかなあ。

どうなんでしょ。
by 麒麟の〜以下省略 (2009-01-08 09:15) 

シロタ

「監督・ばんざい」って、やっぱ「8 1/2」絡みなんすか。

>彼女の内面とは、どうやってもつながる事は出来ない。
ははあ。そっか、そっか。
あの場面には、男女の間の断絶みたいなものを感じたんだけど、そう考えると、いよいよとその断絶の深さが厳然と強く立ち表れますなあ。

内田春菊の視点は、なんか前向きな諦めっていうか、悟ってるよね。「男ってこういうものだったんだ」にしても、
>どうやってもつながることは出来ない。
ってことも。

男性にとっては、責められるよりキツいかもしれないね。
スルーするしかないのかも。


by シロタ (2009-01-08 17:33) 

麒麟檸檬

監督・ばんざい・・・そうですよ。あとはゴダールの気狂いピエロを観れば良さそうだとか何だとか。ゴダールまでは手を延ばす予定はありません。


>男性にとっては、責められるよりキツいかもしれないね。
>スルーするしかないのかも。

そうそう。
って言うと同時に、男は、きついもくそも無感覚だから、ただ時は流れますよ。男なんてぬぼーっとした生き物ですから。とりあえず自分もハタチすぎるくらいまでは全然わからなったクチですよ。いや、ほんと、微塵も気づいてないから。我ながら情けないし鈍感だし。

完全に内田春菊でそのへんを補ったようなものです。サプリメント的?まあおかげさまでわりと何にも持ってなかったので、スッと受け入れる事のできた感じではあったのかな・・・うん、適度にきもいな。

ま、つながるってのも幻想だったりするかもですけどね。
内田春菊といえば岸田秀とのつながりもありますよね。やはり精神的なお話に深まっていくのは必須ですね。ふふふ。

by 麒麟檸檬 (2009-01-10 23:39) 

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