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「欲望のオブジェ」アドリアン・フォーティ [書籍]

副題も含めると「欲望のオブジェ デザインと社会 1750-1980」、原題は「OBJECTS OF DESIRE Design and Society 1750-1980」。まんまだな。
デザインを学ぶにおいて必読の書、っていうことになってるらしいんだけど、実は読んでなかった。今さらな感もありつつ、読。

’94年に翻訳・発行されたデザイン評論なんだけど、今読んでもおもしろい。現代のデザインについても大いに当てはまる指摘がなされていて、しかも平明でわかりやすい。
あらゆるデザインが、デザイナー個人の表現ではなく、近代化へ向かう社会的な風潮、政治的な要請を受けての観念が表出された結果である、という観点で、詳細な資料と具体的な事例とともに論証される。今となっては自明のことと思われる気もするんだけど、そう思えるのもこの著作の影響によってデザインの社会学的考察が進んだ成果であるのかも。

目次立てを紹介してみます。

第一章 進歩のイメイジ
第二章 最初のインダストリアル・デザイナー
第三章 デザインと機械化
第四章 デザインの差異づけ
第五章 家庭
第六章 オフィスのデザイン
第七章 衛生と清潔
第八章 電気―未来の燃料
第九章 家庭省力化
第一〇章 デザインとCI(コーポレイト・アイデンティティ)
第十一章 デザイン、デザイナー、デザイン文献

第五章あたりから、射程が現代にまで及んできて、ほっほーぅ、てひざを打つこと多数。「あったかい家庭」像というのは、近代の所産なんすかー。労働の効率化がはかられたことにより、働くだけの場所つまりオフィスとか工場っていう場所ができて、そこでは個人は労働力に解体されて全人的な人格を奪われる、で、その苦痛を癒す場所、個人を取り戻す場所っていう観念として、「あったかい家庭」ってやつが出来てくるんですって。まー。その場所を実現するために適切な家具調度類を選びしつらえる、トータルインテリアデザインの腕前がその家庭の奥方の器量に直結することになる。家具調度のデザインが単に機能性だけではなく、「あったかい家庭」像ひいては「あったかい家庭を創出するステキ奥様」像へと結びつき、インテリアデザインが過熱していく態。ほっほーぅ。

第六章のオフィスデザインの変遷具合もおもしろい。おもしろいっつか、プチむかつく。オフィスというのは主に事務労働職場ね。労働者の労働力を引き出すために、つか、サボらないように怠けないように効率よく働かせるために職場が整えられ、その意図があまりにあからさまで工場っぽく殺伐としてくる。そすっと今度は、工場との差異化がはかられて、自分ら事務労働従事者は工場で単純作業に従事する労働者とは違うのだ、と思わせるように居心地よさげに整えられる、という仕組み。実際のところ待遇も賃金も工場労働者よりいい訳でもないのに、なんかステキっぽい職場の演出によって労働者を釣る、っていうのは未だに有効かもしれん。所詮は雇われる側の身なれば、プチむかつきもするって話。

第八章の電気器具のデザインについても目からうろこが落ちる度高し。初期の電力使用はほぼ照明に限られていて、そうすると電力消費は夜間に限られて集中する。朝とか昼間にもご家庭で電気を使ってほしい電力会社の意向によって、ヒーターとか調理器具とか洗濯機とか掃除機、アイロンが開発され、いかに電気がクリーンで進歩的でステキな未来の生活をもたらすか、ていう観念がデザインに反映されて広範に訴えられた由。うわー。

などなど、いずれの章もかなり具体的な事例を挙げられ、ことこまかに図や資料が示されて、とてもわかりやすい。
でもってこれ読んでると、おのれ悪辣な資本家め、な気分になってきたりもするんだけども気のせいか(笑)。ていうか、18~19世紀の産業における、機械化、工業化、資本主義経済化の傾向は、あまりにも経済効率優先であったり環境への負荷が大きすぎたり、現代においては批判的に捉えられる事柄も多いから当然ちゃ当然なのかも。
それにしても、もちっと近代史を勉強せねばな。

良書ですが、惜しむらくは価格と入手困難。文庫化再販希望。図書館でフツーに借りられたし、とんでもない稀覯本ではないのかもしれないけど、必読って言われると厳しい。
また、主にイギリスの事例について語られているので、日本の実情に即した類書を期待したい。てか、ありそうな気がする。柏木博の著作とか。

’10.10.4 追記:再版されたようです! 定価も下がった!!


 


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