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「虐殺器官」伊藤計劃 [書籍]

なんか想像してたのと全然違ってた。
語り役の主人公がアメリカの軍人、しかもタイトルに虐殺なんて物騒な文言があるもので、ドンパチサバイバルな所謂戦争もの(含、体育会系な兵士の友情物語)、とか、政治に翻弄される末端の人員の悲劇、とか、なんにしてもドカーンとかうわーっとか派手な高揚に満ち満ちて悲憤慷慨すんのかと思ってた。

全然違ってて、むしろとても静か。
無惨に人が殺される場面や戦闘アクションなどの描写もあるんだけど、そういった場面の印象こそ静か。躍動感や臨場感に欠けるとかそういうことではなくって、冷静に理性的に行動する主人公の、酷いことを酷いと感じない酷さ、みたいなこと。
それは、戦闘に臨んで人殺しを躊躇しないために感情調整を施しているという設定だから、ていうこともあるんだけど、そういう鈍感さを主体的に選び取っている心算で、実は選ばされているのかも知れない、っていう不気味さ、違和感でもあろうかと。

 お前が殺したのだ、と誰かに言ってほしい。
 (略)誰かに、これは本物の罪で、本物の殺意だと言ってほしい。戦場で自分が感じたぎりぎりの感覚。銃弾飛び交うなかで発せられる、自分はいまここに存在しているという声なき叫び。それらが偽物ではないと誰かに教えてほしい。 p.268

対照的に、佐藤亜紀「戦争の法」(文春文庫)の主人公の明晰な語りを思い出した。

「戦争をやっている最中にだって、僕にはやっていいことと悪いことの区別くらい付きました。(略)戦争だからと言って人を殺していい理由にはならない。(略)悪いと知っていて殺したのです。それが戦争ですよ」p.381〜382

「(略)僕は戦争中のことを疾しく思わなければならないんです。(略)」p.382


近未来の主人公の違和感はまんま現代に生きるわたし(たち)の抱える違和感であって、全編に充満する、“なんか違う”“なんか誤魔化してる、誤魔化されてる”っていう感じが非常にリアルに堪える。皮膚にクる。

世界の欺瞞に気づこうと思えば気づけるはず。気づかない=気づこうとしないのは、気づいたら嫌なものを見て傷ついたり困難なことに立ち向かわなければならなくなるから。怠惰だから。
わたしはただ怠惰なだけで、だからそのことに罪悪感を覚えている。
…って思ってるようなことは、既に世界の欺瞞の一部を成している。気づこうとしないように、欺瞞を補強するように振舞うように選ばされ、どうしてそんな欺瞞に落とし込まれているのかってことは、周到に隠されている。見えなくなってる。
実は、本当は、気づけやしないのかもしれない。気づかないうちに行動させられているのかもしれない。罪悪感すら、気づくのを妨げる安全弁かもしれない。っていう不気味さ。


あまりに思い当たってぎょっとした箇所。

「仕事だから。十九世紀の夜明けからこのかた、仕事だから仕方がないという言葉が虫も殺さぬ凡庸な人間たちから、どれだけの残虐さを引き出すことに成功したか、きみは知っているのかね。仕事だから、ナチはユダヤ人をガス室に送れた。仕事だから、東ドイツの国境警備隊は西への脱走者を射殺することができた。仕事だから、仕事だから。兵士や親衛隊である必要はない。すべての仕事は、人間の良心を麻痺させるために存在するんだよ。…(後略)」p.310

「仕事だから仕方がない」っていう言辞に対しては、瞬間湯沸かし器的に即時逆上してしまう訳なんだが、こんなところでこんなふうに結びつくとは思わなかった。

なにも軍人に限ったことではなく。仕事の内容に限らず。
鎖で繋がれて鞭打たれてる訳でもないのに、一日の大部分の時間を割いて自発的に就業する仕組みを、信じ過ぎてやしないか、ということ。それは、成果をあげるためなら、ときに個人的感情も倫理も道徳も投げうって業務に就かざるを得ないと思わせる仕組みでもあり。
さらに、仕事に対して賃金のみならず、やりがいや自己実現まで求めようとする、あるいは求めるべきである、という考え方が、個人の内面まで仕事に従属させ支配しようとすること。
笙野頼子が“おんたこ”と名づけて表わした、個人ひとりひとりが自分で感じたり考えたりしないように仕向ける仕組み/制度にも通じるのかもしれない、などと思った。


読む前に作者の生年を知っちゃったせいなのかもしれないけど、ばりばり同世代な感覚が端々に感じられて、妙に“そうそう”とか“あるある”的な感じに悶えた。
しかもこの人、同窓なんだよなー。絶対どっかですれ違ったりしてる、とか思うと、ものすごく勝手ながら、たまに話をする友人がその話をネタに小説書いた、みたいな親近感を感じてしまって、我ながら図々し過ぎる。
けど、そんなふうに思ってる人多い気がする。それっくらい身近で親近なお話だから。

あわせて佐藤亜紀のエッセイ「あまりにもいい加減でだらしなく出鱈目な」を読むと、さらにクる。



 

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