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「ニーチェの馬」 [映画]

→「ニーチェの馬」公式webサイト

こういうのはDVDとかで観ると途中で止めて休憩しちゃったりすんだろなーと思って、自分で映像を管制できない環境・自分ちよりは緊張感のある場所で観ようとひっさびさに映画館で観た@早稲田松竹。併映の「ファウスト」は体力なくて観らんなかった。

あんまし一般受けしそうな映画とも思えないんだけどやけに混んでて、せっかくの「こんな小難しそうな映画を観ちゃう、ツウでセンスいいワタシ」気分がしゅるしゅる下がる。
いやまあそんな自己満足に浸らんでいいんだけどさー、やっぱりさー、なんかさー。


モノクロ映像。
荒野の一軒家で慎ましく暮らす貧しい父娘と馬の話。

貧しい人の話ってたいてい、
貧乏→でも頑張るよ、努力根性辛抱我慢が尊いのだよ
貧乏→でも強く明るく生きるよ、気の持ちようで貧乏でも幸せ
貧乏→さらに苦難に見舞われ、人生ガタボロに詰んじゃって可哀想
のどれか(もしくはこれらの複合)になりがちだと思うんだけど、んで、わたしはそのどれも嫌いなんであんま貧しい人の話は観たくないんだけど、「ニーチェの馬」は別に貧しい人の話じゃなかった。


淡々と生活してて、その淡々ぶりがおもしろい。気持ちよい。
父ちゃんが着替えるとこ、外套脱ぐ→上着脱ぐ→シャツ脱ぐ→長靴脱ぐ→ズボン脱ぐ→部屋着のシャツに袖通す→着る→ボタン留める→セーター被る→着る…、とか、そんなんがやけにおもしろい。
朝起きて水くみ、酒をキュッとやる、娘が台所でじゃがいも茹でて食卓に出し、ふたりで向かい合って熱々じゃがいもの皮剥いて塩ふって黙々と食べる(じゃがいも食べたくなった)、とか、馬小屋で敷き藁を片づけて飼い葉と水をやって、馬小屋の戸を閉める。とか、本当に淡々。

ひょっとしたら、(それまで写真や絵画しか見たことなくって)初めて動く映像を見た人が、馬がパカパカ走るとことか汽車がごんごん走ってくる映像を観て、おもしれえーって思って何回も繰り返し観ちゃう感じ、ああいう感じかも。
素朴におもしろい。

映像は明暗の諧調がきめ細やかで几帳面に整えられてる。暗色に力がある。
ザラッとした触覚感を感じる。
びゅうびゅう風が吹きすさぶせいか、映像にも土ぼこりっぽい感触が感じられるようなザラッと感。


で、そうやって淡々と生活してるとこに、ナンカ起こる。知り合いが酒譲ってくれーって訪ねてきてヘンな話をしてく、とか、馬が動かない、とかその程度。
父娘は特に慌てず騒がず、いつも通り淡々とじゃがいも食ったり日々の仕事をこなして過ごす。
小ぢんまりした父娘+馬の生活が、絵本の昔話っぽいというか、まあつまりこれは寓話であるのだなーと気づく。

そのうち、そのナンカが妙な予兆めいてきて、あきらかにナニゴトか異変が起こっている、って感じになってくる。
馬が飼い葉を食わなくなる、怪しい集団が訪れる、井戸が涸れる……
それでも特に焦ったり緊迫した感じにはならず、相変わらず父娘は淡々としている。
移動・避難の支度をして出発するけど、それも淡々と。

この淡々さが、静かに闘っている、抗っている、と感じられた。
自分たちの生活が揺るがされそうになること、心が揺るがされそうになることと闘っている。
世界に抗っている。

そして、淡々と過ごすだけでは抗しきれなくなる。
光が失われてあたりが暗くなる、ランプに火が点かない、火種も消える……

「いったい何が起こっているの…」
それでも、いつも通り淡々と向かい合い、真っ暗闇の中、生のじゃがいもを食卓に出して食事をとろうとする。
「食わねばならん」

もうどうしたらいいのかわかんないし、どうしようもない。

なにかが終わる、ってことが冷気に取り巻かれるみたいにクる。

世界が終わる訳ではない、世界は終わらない。
世界は自分たちの生活など慮ることなく非情に無関係に続いていくであろうけれど、その世界が営々と続いてゆく中で、自分たちは必ず確実に終わるのであるよ、ってこと。

といっても仏教的な無常感が漂うってんでもなく、なんかひたすら、終わるんだなぁ、ってあまり感慨もなく思った。
感慨なく、というのもなんか違うかもしれないけど、ことさらに恐怖や不安や焦りを感じるわけでもなかったもんだから。

終わる、居なくなる、なにも無くなる、ってことに静かに飲み込まれて、なにも感じなくなるような、そういう感じで、ああ終わるんだなぁ、って。


全編通じて強い風が止むことなく吹き晒し、そのことだけが印象に残るような鑑賞後感。





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コメント 2

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ヒノキオ

これ凄かったですね~

見終わったあとどうしていいのかわからず、
とりあえずあの客の台詞をメモに取ってたまに読み返してます
それで何がわかるってもんでもないのですが、
なんだか妙にエネルギー貰う感じで


by ヒノキオ (2013-04-22 23:23) 

シロタ


あー確かに!
あんなに淡々と「終わり」が描かれてるのに、無力感とか絶望ってよりはエネルギー貰う感じ。不思議。

お酒もらいにきた客、あの人どっから来たんでしょうね。
警句とか箴言めいた台詞なのに、風体は酔っ払い。
自身も気づかずにどこかから何かメッセージを預かってきた人みたいな。


by シロタ (2013-04-24 18:02) 

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